コンピュータの進化とその普及は、次々と新たな仕組みを生み出し、社会を発展させ、私たちの生活を便利にしてくれました。今や誰もがパソコンやスマートフォンなどの情報端末を使いこなし、買い物や公共交通機関の利用、インターネットバンキングなどを利用する時代。
今回はそんなコンピューターや情報システムがどのような進化を遂げ、私たちの生活になくてはならないものとなってきたのか、その歴史を振り返り、過去から今日への変遷をたどってみることにしましょう。
コンピュータの歴史
買い物に公共交通機関の利用、友人とのやりとりなど私たちの生活に大きな利便性をもたらせてくれているスマートフォンや、仕事や勉強のツールとしてなくてはならない役割を果たすようになったパソコン。
私たちがこれら便利な情報端末やアプリなどのサービスを利用できるようになるまでには、幾度ものコンピュータやソフトウェアの技術革新を経てきた歴史があり、その積み重ねが現在につながっています。
ここでは、そんなコンピュータの歴史を振り返ってみることにしましょう。
コンピュータのはじまり
「最初の実用コンピュータ」という観点で言えば、1946年に米ペンシルベニア大学で作られた「ENIAC」が現在の汎用型コンピュータの元祖だと言われています。
1万7840本もの真空管で構成され、重さは約28トンにもおよぶ巨大な装置で、毎秒5,000演算をこなす計算能力を持ち、砲弾の弾道を計算する計算機として開発されました。この「ENIAC」は、それまで長時間を要していた大砲の弾道計算における方程式の演算を数秒で解くことができたと言われています。
ソフトウェアの概念が誕生
こうした汎用型コンピュータを動かすにはソフトウェアが欠かせませんが、当時は現在のようなプログラマーがコンピューター言語を用いてプログラミングを行うスタイルではなく、配線をつなぎ替えることで計算式の作成や変更を行っていました。もちろんOSやアプリケーションといった概念はなく、完全に「計算式を組む」「計算を解く」といったことに特化したコンピュータでした。
また、今日のコンピュータは2進法でデータを扱うのが一般的ですが、ENIACは10進法で演算を行うなど、現在のコンピュータとは異なる部分もありました。
その後、ENIACに続く汎用コンピュータとして、1951年に「EDVAC」が登場します。現在のコンピュータと同じく2進数でデータを扱い、プログラムを本体に内蔵できるなどの特徴を持ち、計算能力も大幅に向上するなど、前身のENIACから大きな進化を遂げます。
コンピュータの進化
1946年登場の「ENIAC」、1951年登場の「EDVAC」といった黎明期の汎用コンピュータは、その後、真空管からトランジスタへと方式が進化し、1958年に誕生した世界初の半導体コンピュータ「USSC」(米Remington Rand社)を皮切りに「IBM7090」、「IBM1401 」(ともに米IBM社)といったコンピュータが登場します。それに併せて科学技術計算用の「Fortran」、事務計算用の「COBOL」といったプログラミング言語も開発され、用途に応じて柔軟なプログラムを作成できるようになっていきます。
トランジスタからIC、LSIへと進化し、処理能力が飛躍的に向上
さらに1960年代からはIC(集積回路)を搭載した汎用コンピュータが登場。それまでのトランジスタと比べると、処理能力が飛躍的に高まったことはもちろん、小型化や信頼性なども向上しました。
代表的な機種としては「IBMシステム/360」(IBM社)で、化学計算と事務処理計算の両方に対応することができるなど利便性を大きく高めました。
その後、ICよりもさらに集積率の高い「LSI」(大規模集積回路)を搭載した「IBMシステム/370」が登場。同じくIBM社によって開発された「OS/360」というメインフレーム用のOSを搭載し、仮想メモリや多重処理、仮想計算機能といった先進的な機能を備えました。
本格的な情報システムの歴史がスタート
こうしたスペックは、その後の続々と登場するメインフレーム(大型汎用機汎/ホストコンピュータ)へと引き継がれていきます。国内ではこうしたメインフレームとCOBOL言語を用いて銀行や証券、生損保などの大規模オンラインシステムが次々と開発され、大規模データの管理を効率化するとともに、ATMやCD(キャッシュディスペンサー)での預金引き出しや現金預け入れなど、利用者に大きな利便性をもたらすようになります。
こうして日本における本格的な情報システム戦略の歴史がスタートしていくことになります。
小型化が進み、オフィスにコンピューターを設置する時代へ
1960年代後半にはこれまでの大型汎用コンピューターにくらべ、「PDP-8」(米DEC社)など小型で安価な「ミニコンピューター」が本格的に商用化され、研究室や設計室など限られた空間にも設置できるコンピューターとして人気を博します。
一方、国内でもオフィスでの使用を目的とした、事務処理用のオフィスコンピュータ(オフコン)が登場し、大手企業だけでなく中小企業、地方自治体などでビジネスを支えました。リコーや富士通、日本電気、三菱電機、東芝など国内の主要電機メーカーがこぞって参入するなど国内独自のオフコン市場を形成し、企業戦略におけるコンピューターと情報システムの重要性は年々高まっていくことになります。
個人がコンピューターを所有する時代へ~パソコン時代
そして1975年、米国MITS社が初のパソコン「Altair8800」を発表したのを皮切りに、個人がコンピュータを所有できる「パソコン時代」が幕を開けることになります。
現在は「パソコン」という呼び方が一般的ですが、当時は「ミニコンピューター」や「マイクロコンピューター」などとも呼ばれており、いずれもこれまでの業務用コンピューターとは一線を画すホビー要素の強い製品が多く、現在私たちが使っているパソコンの原型とも呼べるものでした。
パソコン時代の幕開け
1977年には精工舎(現在のセイコーホールディングス)が国産初のマイクロコンピュータを発売。同じ年に米Apple Computer社(現在のApple社)が「Apple II」を発売し、世界的な大ヒット商品となりました。
これを皮切りに、シャープが「MZ-80K」、日立が「ベーシックマスターMB-6880」、NECが「PC-8001」といったパソコンを発売し、本格的なパソコン時代へと突入していくことになります。
さまざまな開発でパソコンが活用されるように
そして1980年代にはNECが国産パソコンの大ベストセラーとなる「PC-9801」を発売。
Microsoft社のOSであるMS-DOSとの組み合わせにより、日本語ワープロやグラフィック、テキストエディタ、CADをはじめとしたさまざまなビジネス系ソフトウェアやゲームソフトを実行することができ、爆発的な人気を博することになります。
このPC-9801シリーズでは「Microsoft C」(Microsoft社)や「Turbo C」(Borland社)といったC言語のコンパイラ(プログラムコードから機械語への変換ソフト)や、「Microsoft Macro Assembler」などのアセンブリ言語用のアセンブラなども使うことができ、パソコン上で実行する種々の業務システムやゲーム、メカトロニクス分野向け組み込みシステムなどさまざまな用途のソフトェア開発においてもこのPC-9801シリーズが活用されました。
グラフィカルなOSの登場
1984年にはApple社から「Macintosh」が登場。現在のmacOSやWindowsなどと同様のウィンドウやアイコン、ボタンなどをマウスでクリックして操作するGUI(Graphical User Interface)OSで、コンピューターのハードルが一気に下がりました。翌年の1985年にはMicrosoft社から同じGUIのOSである「Windows1.0」が登場。本格的なパソコン時代が幕を開けることになります。
さらにIBM社が自社のパソコンである「PC/AT」の仕様を外部に公開することで、他のメーカーがパソコン市場に参入しやすくなり、国内外さまざまなメーカーが「PC/AT互換機」と呼ばれるパソコンを発売するようになります。こうしたパソコンにMS-DOSやWindowsが搭載されることで急速にパソコン市場が成長していきます。
GUI OSの本格普及によりパソコンが家庭へ
そして1995年には、より洗練されたGUIを持つ「Windows95」が登場。操作のしやすさはさることながら、標準でネットワーク接続機能が搭載され、インターネットに接続したりLAN環境を構築する、といったことが手軽に行えるようになりました。
PC/AT互換機の多くは、このWindows95を標準的に搭載し、ワープロや表計算などのビジネスソフトやゲームなどさまざまなアプリケーションがバンドルされた状態で売られており、梱包を解いて電源を入れればすぐに使うことができるようになっていました。
こうした販売戦略によってパソコンが一般家庭に受け入れられるようになっていきます。
インターネットの普及によりさまざまなWEBサービスが登場
前述のようにWindows95はネットワーク接続機能を搭載していたため、インターネットを利用するユーザーも急速に増えていきます。当初はパソコン通信を趣味とするようなごく一部の人だけのものであったインターネットですが、Windows95の登場によって接続のハードルが下がり、マニアでなくともインターネットやEメールを利用できるようになったのです。
その後、Windows98、Me、NT、2000、XPとWindowsシリーズが進化し、macOS(当初はMac OSX)を搭載したApple社のMacシリーズのコンピューターなども売上を大きく伸ばすことでインターネットに接続するユーザーが世界的に増加していきます。それに応じてBBS(WEB上の掲示板)やチャット、ブログ、メッセンジャー、ネットワークゲームといったWEBサービスが次々と生まれます。
さらに「YouTube」に代表される動画共有サイトや、「Twitter」「Facebook」といったSNSなど新しいコミュニケーションサービスなども急速に普及し、これまでとは違うかたちの「人と人がつながる文化」が生まれていきました。
スマートフォン時代の到来
そして2007年1月9日、アップル社の「iPhone」の発表により、情報端末の世界に大きな革命が訪れます。
小さな手のひらサイズの筐体に電話、音楽プレーヤー、カメラ、スケジュール管理、メール、WEBブラウザーが標準搭載され、さらに好きなアプリをインストールして自分好みにカスタマイズできるなど、それまでの携帯電話とは全く異なる無限の可能性を秘めるデバイスとして、情報端末の歴史を一夜にして塗り替えます。
誰もがスマートフォンを活用する時代へ
その後、3G回線に対応したiPhone3G(2008年)、処理速度を高めたiPhone3Gs(2009年)、高精細なRetinaディスプレイを搭載したiPhone4(2010年)やiPhone4s(2011年)と進化を遂げていく一方、Google社も2008年にスマートデバイス向けOS「Android 1.0」を発表。日本国内では2009年7月に国内初のAndroid OS搭載スマートフォンとして「HT-03A」(HTC社)がドコモから発売され、その後、国内外さまざまなメーカーからAndroidを搭載したスマートフォンが発売されるようになります。
そして2014年9月末にはスマートフォンの契約者がケータイのそれを追い抜き、本格的なスマートフォン時代が到来。
2021年1月にはスマートフォンとケータイの比率においてスマートフォン比率が92.8%に達するなど、今や世の中は完全にスマートフォンの百花繚乱時代を迎えています。
情報端末の進化とともに情報システムも進化
そんなスマートフォンの普及により、今日では誰もがSNSやメッセージアプリを使ってコミュニケーションを図ったり、「おサイフケータイ」機能を使って買い物をしたり、公共交通機関を利用したり、AmazonなどのECサイトで買い物を届けてもらったりといったことが手軽にできるようになりました。
スマートフォン普及による情報システムの変化
当然、そうした便利なサービスを支える情報システムもスマートフォン普及以前とは比べようもないほどに高度化され、ビッグデータやAIを用いたマーケティングや販売分析、大規模データ処理、ICT(情報通信技術)を用いた高度なコミュニケーション技術が不可欠なものとなっています。
さらに今後は社会のあらゆる部分にまでITを浸透させ、人々の生活をより便利なものとしていくDX(デジタルトランスフォーメーション)なども、国と民間企業で積極的に推進されていくことになるでしょう。
高度化する情報ビジネスに対応するために総合的なスキルが求められていく
これから情報系の仕事やプログラマーなどのエンジニアを目指そうと思っている方は、まさにこうした高度なシステム構築やシステム活用と向き合っていくことになります。そんな高度な情報ビジネスのニーズに応えていくには、プログラミングや設計スキル、ネットワーク、セキュリティ、WEB、AIなど総合的なスキルが求められていくことになるでしょう。
これからITの世界を志そうと思っている方は、エンジニア・プログラマーの知識・技術や、AI、データ分析など、異なるスキルを総合的に学べるような専門学校で基礎習得を図るのもいいでしょう。専門学校だけに実践的なスキルや知識を習得することができ、それによって将来の選択肢も大きく広がっていくことになります。
まとめ
以上、「コンピューターと情報システム」というテーマで解説を行ってきました。
当初は軍事目的で開発されたコンピューターは、進化の過程で企業や行政から個人へと浸透し、今日においては誰もがスマートフォンやパソコンを用いて仕事をしたり、買い物や公共交通機関の利用など日常生活の必需品として愛用されるようになりました。
その過程の中で情報システムのあり方も企業の情報戦略を担う大規模なものから行政サービス、人々の日常生活を便利にするアプリまで幅広く社会へと浸透し、私たちの生活になくてはならないものとなっていきました。
そんな利便性を支える情報システム構築も、以前とは比べようもないほどに高度・多様化しており、それを実現するエンジニアもプログラミングだけでなく、ネットワークやセキュリティ、WEB、AIなどトータルなスキルが求められるようになっていくでしょう。
最後に、今回の記事を簡単にまとめてみることにします。
●コンピュータの歴史
・砲弾の弾道計算用の計算機が今日の汎用コンピューターのはじまり
・真空管からトランジスタ、IC、LSIとコンピューターの性能が進化
・小型化により企業でコンピューターを活用する時代へ
●個人がコンピューターを所有する時代へ
・個人向けのコンピューター「パソコン」の登場
・さまざまな開発でパソコンが活用される時代へ
・人に優しいOSの登場で一気にパソコンが普及
・インターネットの普及でさまざまなWEBサービスが登場
●スマートフォン時代の到来
・情報端末の進化とともに情報システムも進化
・高度化するITニーズに応えるために総合的なスキルが求められていく