コンピューターが医療現場に変革をもたらす

近年のAI(人工知能)やICT(情報通信技術)技術の進化は目覚ましいものがあり、車の自動運転や工場の無人化、オフィスワークにおける事務作業の自動化、農業を効率化するスマート農業はじめ、さまざまな分野で革新を巻き起こしています。その応用分野は私たちの健康に密接する医療分野にまで及んでおり、新たな治療や医薬品開発をはじめとした領域で大きな成果を上げています。
今回は、そんな医療分野でどのようにコンピュータやAIが活用され、変革を起こしてきたのかを解説していくことにします。

医療現場とコンピューターの関係

今日の医療では、情報システムやコンピュータが不可欠なものとなっています。
たとえばCTスキャンおよびMRIなどの「コンピュータ断層診断装置」、X線、CT、MRIなどの画像から身体の異常を発見する「画層診断システム」、医師が遠く離れた場所にいる患者を診断する「遠隔診断システム」などを一例に、医療の隅々にまでIT活用が行われています。
中でもレセプト(診療報酬明細書)を作成する上での「医事コンピュータ」は、1970年代から利用がはじまるなど歴史があり、それと密接に関わる電子カルテなども1999年より普及がはじまるなど、医療事務とコンピュータは特に関係が深く豊富な実績を持つ組み合わせだと言えます。ここではそんな医療事務におけるIT活用について解説を行っていきます。

医療事務の電子化

病院をはじめとした医療機関では、診察内容にもとづき健康保険組合や共済組合、市区町村などに医療費を請求しますが、その際、処置内容や用いた医薬品の詳細を記した診療報酬明細書(レセプト)を作成する必要があります。これらの入力を効率化してくれるのがレセプトコンピュータ(レセコン)です。
これは診療内容の入力や保険点数の自動計算などを行ってくれるコンピュータで、厚生労働省の発表(令和2年4月)によれば、レセプトコンピュータを導入する医療機関や薬局は94%にも上るなど、いまやほぼすべての病院で用いられています。

カルテの電子化

従来、医師が紙のカルテに患者の診療内容や処置、処方、経過といった情報を書き込んでいたものをデジタルに置き換えたものが電子カルテです。患者ごとのカルテ情報の管理性に優れ、必要な情報をリアルタイムで確認することができるほか、さまざまな検査の結果をデータとして取り込めるので必要な情報を集約することができるなどのメリットがあります。
近年では、この電子カルテとレセプトコンピュータを連携させてさらなる効率化を図ったり、医療ミス防止を図るなどの工夫を行う医療機関も増えています。

今日の医療事務ではIT活用がコンピュータが不可欠なものに

このように、今日の医療事務ではコンピュータによる電子化が当たり前のものとなっており、大学病院や総合病院などの大規模な病院だけでなく、個人経営のクリニックや診療所などでもレセプトコンピュータや電子カルテが導入されています。こうしたレセプトコンピュータの中には、来院患者数の推移や、新患・再診数の推移、来院患者エリア分布などのデータを元に経営分析を行う機能が搭載されたものもあり、病院の経営をサポートする上でも大きな役割を果たしています。

AIの活用による医療技術の革新

もちろん、医療事務以外の部分でも積極的にIT活用が行われています。
中でもAIはこれまでの医療を変えるほどの大きな可能性を秘める技術として、急速に医療分野での活用が進められています。
以下に医療分野における代表的なAIの活用例について解説します。

AIががんを検出~画像診断

レントゲンやエコー(超音波)、CT、MRI、内視鏡などの画像データをAIが診断し、異常を発見する、という活用法です。これは深層学習(ディープラーニング)を用いた画像解析で、がんをはじめとした悪性腫瘍の検出などにおいて大きな効果を上げています。
これと医師による診断とを組み合わせることで腫瘍の検出精度を向上させ、がんの早期発見へとつなげていくことが可能となります。

AIによる問診で病気を特定~自動問診システム

患者ごとにAIが最適な質問を自動で生成し、その回答内容から病名を導き出すのがこの自動問診システムです。すべての患者に同じ質問を投げかける紙の問診票に対し、自動問診システムでは患者ごとの症状に応じた問診内容をAIが作成するので、より具体的に病気の傾向を絞ることができるのが大きなメリットとなります。
それによって医師による口頭問診の精度が向上するとともに問診にかかる時間の短縮にもつながり、結果として患者への説明により多くの時間を割くことが可能となります。

AIによる医薬品開発~創薬AI

医薬品開発では、薬になりそうな物質を見つけ、それをもとに分子構造の設計を行ったり、薬効や毒性を分析しながら候補となる物質の絞り込みを行いますが、この工程には多くの手間と時間がかかり、従来の研究員による評価・検証作業では何年もの時間を要します。これをAIやビッグデータを用いて短縮・効率化する試みが大手製薬メーカーを中心に行われています。
新薬開発が成功する確率は2万6千分の1と低く、その開発期間も10年以上におよぶため、このAI活用によって設計や物質の絞り込み工程を短縮することで、コストや時間の削減につなげていくことが可能となります。

医療分野ではさらなるIT活用が進められていく

このように、今日の医療現場ではAIやICTといったIT活用がなくてはならないものとなっています。
特に日本は高齢化による患者数の増加と、少子化による医療従事者の人材不足という深刻な問題を抱えており、ICTやIoT、AIなどの技術を用いた医療現場の効率化は、こうした問題を解決する上でも大きな役割を果たしていくことでしょう。同時にスマートフォンやスマートウオッチなどのIoT機器の普及により、個人レベルの健康管理なども高度化され、健康寿命の延伸など予防医療においても大きな役割を果たしていきます。
もちろん医療技術や創薬技術のさらなる進化においても、IT活用は大きな役割を果たしていくことは間違いありません。

医療分野におけるエンジニア需要も高まっていく

よって、他の分野同様に、医療分野においてもプログラマーなどのITエンジニアに対するニーズはより一層大きなものとなっていくことでしょう。先に述べた医療事務系のシステム開発・運用はもちろん、AIやビッグデータを用いた先端的なIT活用に対応できるエンジニアなどは、特にニーズが高まっていくことが予想されれます。
そのため、情報ビジネスを学べるITの専門学校でこうしたITの基礎を身につけておくことで、将来的に医療分野に貢献できる人材を目指すことができます。特にAIやデータアナリスト専攻などのコースを設ける情報系の専門学校は、将来に向けての強力な武器を身につけられる意味で強い味方となってくれることでしょう。

まとめ

以上、「コンピューターと医療」というテーマで解説を行ってきました。

1970年代から医療事務面でITが活用され、その後CTやMRIなどのコンピュータ断層診断装置、画像診断システム、ICTを用いた遠隔診断システム、そしてAIやビッグデータを活用した病気の早期発見システムや問診システム、新薬開発支援へと発展し、医療分野に数々の革新をもたらせてきたIT。
特に日本は高齢化による患者数の増加と少子化による医療従事者の減少という社会的な課題を抱えていることからIT活用による効率化は急務とされており、今後、ITスキルを持つエンジニアは他の分野同様、医療分野においてもより一層強く求められていくことでしょう。
そうした社会的課題の解決や医療の発展に貢献したい、という方は、情報系の専門学校でITスキルを身につけるのも一つの手です。特にAIやデータアナリストの専攻コースなどを設ける専門学校などは、これからの時代に求められるスキルを身につける上でとても心強い味方となってくれることでしょう。

最後に、今回の記事を簡単にまとめてみることにします。

●医療現場とコンピューターの関係
・医療事務の電子化
・カルテの電子化
・今日の医療事務ではIT活用がコンピュータが不可欠

●AIやICTの活用による医療技術の革新
・AIががんを検出~画像診断
・AIによる問診で病気を特定~自動問診システム
・AIによる医薬品開発~創薬AI

●医療分野ではさらなるIT活用が進められていく
・医療分野におけるエンジニア需要も高まっていく


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