2018年9月に経済産業省が『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を発表しました。
この「DXレポート」によると、日本国内の企業がDXを推進できなかった場合、業務効率・競争力の低下は避けられず、2025年には12兆円もの経済損失が生じるとされています。さらに、IT人材は43万人も不足すると言われています。この現象を「2025年の崖」と呼んでいます。
ではなぜ、このような「2025年の崖」問題が発生するのでしょうか?
DXを推進する上での課題
AI、クラウド、IoTといったデジタルに関する用語が当たり前に使われるようになった昨今、あらゆる産業に新たなデジタル技術を活用したビジネスモデルを展開する企業が新規参入するなど、社会は日々進化しています。
このような環境下で、各企業は業務効率・競争力の強化のために、DXを推進していくことが死活問題となっています。
日本国内の各企業でもDX推進の必要性に対する認識が高まり、多くの経営者がDXの必要性を理解しているものの、どのようにビジネスを変革していくのか、どのようなデジタル技術を活用するのかなど、具体的な方向性が定まらずに模索している企業が多いのが現状です。
DX推進を阻む要因
企業のDX推進を阻む要因の1つとして、既存システムが「レガシーシステム」と化していることが挙げられます。
レガシーとは「遺産」や「先人の遺物」、「時代遅れのもの」といった意味があり、「レガシーシステム」とは、技術革新が進み新しい技術が広く普及しているにも関わらず、旧来の技術基盤によって構築されたシステムのことを指します。
JUAS(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)のアンケート調査によると、約8割の企業が「レガシーシステム」を抱えており、67%の企業がレガシーシステムがDX推進の足枷になっていると回答しています。
レガシーシステムの問題点
レガシーシステムの問題の本質は「自社システムの中身がブラックボックス化していること」にあります。
古いシステムを使っているからと言って、必ずしもブラックボックス化するというわけではありませんが、古いシステムはシステムのメンテナンスによって複雑化・肥大化しがちで、メンテナンスを繰り返すことでレガシー問題が発生しやすいと言えます。
また、国内の多くの企業では、大規模なシステム開発を行ってきた人材が定年退職の時期を迎えています。これまで一部の人材のみが有していたノウハウがこれらの人材の定年退職とともに失われることで、システムのブラックボックス化が起きています。
IT関連予算の90%がシステムの運用・保守に割かれる
新しいデジタル技術を導入して、新たなビジネスモデルを創出するためには「攻めのIT投資」が求められます。
しかし、JUASの調査によると、国内企業の40%以上が既存システムの運用・保守のためにIT関連予算の90%以上を割り当てていて、攻めのIT投資には予算を回せていないことが現状です。
2018年の調査では、基幹システムを刷新せずに21年以上経過している企業は全体の2割でしたが、2025年には6割まで増えると言われています。これらの企業はIT関連予算を運用・保守に回さざるを得ないと言えます。
レガシーシステムに起因する経済損失は12兆円
それでは、このままレガシーシステムを刷新せず、現状のシステムを使い続けた場合にはどのようなリスクが予想されるのでしょうか?
●デジタル競争の敗者に
企業はデジタル技術の進化により爆発的に増加するデータを活用することができず、DXを実現することができないため、市場の変化に対してビジネスモデルを変化させることができません。これにより、デジタル競争の敗者になってしまうことで、経済損失が予想されます。
●システムの維持管理費が高騰
ITシステムの運用・保守の担い手が不在になることで、多くの技術的負債を抱えることになります。この問題を解決するためにシステムの維持管理費が高額化し、IT予算の90%以上をシステムの保守・運用に充てることになります。
●リスク管理のための予算
システムが老朽化することで、サイバーセキュリティ対策や、事故・災害によるシステムトラブルのリスクが高まることが予想されます。このリスクを予防するための措置としての予算が必要となります。
これらの現象は複雑化・老朽化・ブラックボックス化したシステムに起因する問題です。このことに伴う経済損失は、2025年以降、最大で12兆円にものぼると言われています。
不足するIT人材は43万人
経済産業省のDXレポートによると、2018年現在でもIT人材は17万人不足していると言われています。このIT人材不足が、2025年にはなんと43万人まで膨れ上がると推測されています。
これは、レガシーシステムを保守・運用してきたIT人材の高齢化・退職によって、人材が枯渇することが主な原因とされています。
2018年現在でも人材が不足しているところに、レガシーシステムの保守のための人材が必要となってしまうため、攻めのIT投資がどんどん遠ざかっていくという悪循環を生んでいます。
まとめ
「2023年の崖」に起因する課題は以下の通りです。
・国内企業の80%がレガシーシステムを抱えており、67%の企業がレガシーシステムがDX推進の足枷となっていると感じている。
・2025年には、国内企業の40%以上がIT関連予算の90%をシステムの保守・運用に充てる。
・2025年には国内企業の60%が基幹システムを21年以上刷新せずに使い続けている。
・2025年にはIT人材が43万人不足する。
・これらの2025年の崖による経済損失は12兆円。
IT人材の確保は、2021年に政府がデジタル庁を創設したことからも分かるように、国を挙げて解決すべき問題です。
これからの社会で必要とされるIT人材を目指しましょう。